信心が欲しい

自筆の走り書き

ガバ穴ダディー論考①:《ガバ穴のないダディ―》

 

 

1.

「四角い顔の男の中の男」とも評された彼は、性的魅力を抜きにして好感が持てる。だからこそこの殉教の旅の主人公たりえたのだ。

 

「月刊サムソン ビデオレビュー 「ガバ穴ダディー」 書き起こし」

http://blog.livedoor.jp/bloodyrosepoke-dedetomo.com/archives/34782791.html

 

 

2.

一見して判るように、このビデオのテーマは「ゲイの享楽主義」ではなく「生命の受難」にある。作中のダディーは快楽を越えて苦痛を味わっている(ように見える)。彼の発する怪音は悲鳴にも似たおぞましさを帯びた何かだ。

また常に「不本意な」状況に晒されていることも観察できる。これはコメディリリーフとして働くと同時に、不安の時代を生きる私たち視聴者の共感を誘う。彼はついぞ「太いシーチキン」に見えることは無かった。

 

諸氏が指摘するように、コブラ三木谷が呼ばれたのはおそらく島田部長のタチとしての不能(インポテンツ)が原因で、コブラが来てから状況は更に混沌とする。

 

コブラ三木谷の呼吸音はなぜうるさいのかを考察してみた」

https://kumohai6794re.hatenablog.com/entry/2020/10/23/235726

 

ここにこの作品の人間観察の凄みが現れていると思う。ゲイの「楽園」=「ぷもも園」(?)など端から無いのだという絶望が、快楽と身体(の不在)、そして他者の出現を通じて描かれている。ダディーの「ぷももえんぐえげぎおんもえちょっちょっちょっさっ」という前言語的発話も示唆的であり、今なお不気味に響くところがある。

 

トリプルプレイが始まってから島田部長は小声で「うるせ……」と言っているが、しかしダディーの五月蠅さはある種の「告発」ではないのか。彼のおかれた状況の喜劇性と裏返しの悲劇性。4本の「腕」に抑圧された彼の身体。もはや「声」しか彼が持てるものは無かった。

果てには口さえも「男根」に塞がれてしまうのだが……。

 

 

3.

いわゆる「尻穴問答」について筆者が勝手に勘違いしていた点を訂正。

「お尻の穴」を「違うだろ」と否定されたダディ―は、実は島田部長の「おまんこ」催促を待つことなく「私のおまんこ」と発言していた。

いや、これも正確ではない。二人の発話はほぼ同時に行われている(被ってしまった)。僅かに島田の「おまんこ」が先行することになるが、ダディーの発話の滑らかさからして「私のおまんこ」は島田部長のそれを受けたものではない。無論、それ以降の「まんまん言葉の連発」は島田の意に沿う形で行われたのだろうが。

 

「ガバ穴ダディー・ノンケ説」

https://kumohai6794re.hatenablog.com/entry/2020/12/02/155058

「ガバ穴ダディーレビュー集2」

https://kumohai6794re.hatenablog.com/entry/2021/03/03/234228

 

ともかく、ダディーが「お尻の穴」第一の言い換えとして既に「おまんこ」という語彙を持っていたこと。初の「おまんこ」発話が二人でほぼ同時だったこと。これらの事実は(ある種の詩作品を鑑賞するように)「言葉」とその運動に着目して『ガバ穴ダディ―』を考えていく上で非常に重要になってくると思う。

あの言説空間において島田部長が真に指導的(指示厨的)役割を果たしていたのか。それとも二人は対等な協調関係にあり新しい言葉が次々引き出されていたのか。あるいは暴走するダディーに島田が押されていたのか。コブラが入った後に空間の磁場はどう変化したか(そもそも二人はいつコブラ参戦を聞かされたのだろう)。今後の研究で明らかにされることを期待したい。

 

 

 

misc.

 

・「太いシーチキン」は「太いチンチン」では決してありえない。彼があの極限状態で「シーチキン」と名指すしか無かったもの、それは普通「救済」と呼ばれるものなのかもしれない。この作品は単なるペシミズムに終止することなく、ダディーの生き様を通じて希望をも描いている。

 

・本稿では一貫してダディー(緩次郎)を《預言者》として扱っている。しかし性感帯が全身に分布した普段は真面目な教師しか神託を受け取る資格は無いのだろうか? この点において画期的だったのが「ガバ穴ダディ―ノンケ説」であり、言い換えればそれは現代における聖人の在り方=《ガバ穴のないダディー》なのかもしれない。

 

・島田部長が繰り返し言及する「よう滲みる」とはどういう意味なのだろうか? 一回でも真剣に肛門性行を営んだことがあれば容易にわかることなのだろうか。

 

・『ガバ穴ダディ―』の「音」について、技術的にマイキングの問題を取り上げてもよいと思う。どこで集音したらあのような音割れ/音圧が発生するのだろう? 筆者は特にビデオ終盤に聴く重機関銃のような音に興味があり、そのマジックの仕組みを知りたい。

 

「緩次郎セリフ集」

https://www.nicovideo.jp/watch/sm26184487